医療従事者とワクチン接種 オフィスでは、常勤・非常勤問わず『日本感染環境学会 医療関係者のためのワクチンガイドライン』 に基づき全スタッフに抗体検査及びワクチン接種を義務づけております。 わが国の国立大学医学部附属病院感染対策協議会が作成した病院感染対策ガイドライン(平成 14 年)にも、感染の標準予防策として、「血液や体液などに暴露される可能性がある職員は B 型肝炎ワクチンを接種する。」「水痘あるいは麻疹の患者にはこれらのウイルスに対して免疫を有する職員が優先して対応する。小児病棟あるいは移植病棟の職員のうち、水痘・麻疹ウイルスの抗体陰性者にはワクチンの接種を勧める。」「小児科病棟、高齢者を管理する病棟、移植病棟などで勤務する医療従事者は、インフルエンザ流行期にワクチンを接種する方がよい。」と記載されています。 医療従事者にワクチン接種が勧められる理由は、①医療従事者の健康保持、②医療従事者から周囲の患者への感染防止、です。実際、アメリカの老人施設でそこに勤務する職員へインフルエンザワクチンを接種したことにより、患者の死亡率が有意に低下したという報告があります( J Infect Dis 1997 、 Lancet 2000 )。 さらに、医療従事者は種々の感染症に感染する危険性が高く、発症すると勤務制限や欠勤を必要とすることもあり、また、他の患者や病院スタッフに対する感染防止対策が必要となります。それには多大な労力、時間、費用が費やされることになり、病院の損害も大きくなりますので、その点でもワクチン接種が勧められると考えられます。 わが国では医療従事者へのワクチン接種は法的に規定されていません。そこで、いろいろな文献より考えて、どの感染症に対するワクチン接種が推奨されるかを述べてみましょう。 アメリカ予防接種諮問委員会( ACIP )では、医療従事者に必要なワクチンを表のように分類しています。 ①医療従事者全員に推奨 B 型肝炎ワクチン、麻疹ワクチン、風疹ワクチン、水痘ワクチン、ムンプスワクチン、インフルエンザワクチン | ②特殊な環境下の医療従事者に推奨 BCG ワクチン、百日咳ワクチン、 A 型肝炎ワクチン、天然痘ワクチン、髄膜炎菌ワクチン、腸チフスワクチン | ③成人全員に推奨 ジフテリア/破傷風ワクチン、肺炎球菌ワクチン |
ここでは、医療従事者全員に強く推奨されているワクチンについて述べてみましょう。 1)B 型肝炎ワクチン B 型肝炎は院内感染や針刺し事故などの職業感染でリスクの高い感染症であり、ワクチン接種の意義は大きいと思われます。 HBs 抗原、抗体の有無を確認し、いずれも陰性の場合は1か月の間隔でワクチンを2回接種します。 2) 麻疹ワクチン 麻疹(はしか)は空気感染する感染症で、症状の重篤性や合併症などから重症感染症といえます。医療従事者の感染リスクは一般集団の 13 倍と言われており、予防接種の必要性は高いと考えられます。抗体価を調べて、 HI 法(赤血球凝集抑制反応)で陰性または PA 法(ゼラチン凝集反応)で 1:128 未満の場合はワクチンを接種します。 3) 風疹ワクチン 風疹(三日はしか)に妊婦が罹患した場合には、先天奇形や胎児死亡を招来することがありますので、風疹ワクチンは風疹流行の制圧、胎児の風疹感染予防に不可欠です。 HI 法で抗体価を測定し、 1:8 以下の場合はワクチンを接種する。 4) 水痘ワクチン 水痘(みずぼうそう)は麻疹と同様に空気感染する感染症で、罹患した患者、医療従事者、見舞い客などが感染源となり、妊婦や免疫不全患者では重症化する危険性があり、蜜に接触する医療従事者では特に注意が必要です。皮内抗原液による皮内テストで水痘に対する細胞性免疫の有無を調べ、あるいは IAHA 法(免疫凝集赤血球凝集反応)で抗体価を測定し陰性の場合はワクチンを接種します。 5) ムンプスワクチン 病院内でのムンプス(おたふくかぜ)の爆発的な流行(アウトブレイク)の報告は少ないですが、発症した場合は医療従事者が被る合併症が多彩である(無菌性髄膜炎、聴力障害、卵巣炎、睾丸炎など)ため、ワクチン接種の必要性は高いと言えます。 ELISA 法(酵素免疫反応)で抗体価を測定し、陰性の場合はワクチンを接種します。 6) インフルエンザワクチン 医療従事者はハイリスク者(患者)に伝播する者として毎年1回ワクチンを接種します。前述のように、ワクチン接種により、高齢者、長期入所者の死亡率が抑制されたという報告があります。 上記のような感染リスクの高い疾患に対する医療従事者の抗体価を事前に調べて、抗体陰性者には積極的にワクチンを接種する体制を構築することが院内感染を防止するための最も効果的かつ経済的なものであると思われます。 |